2013年8月21日水曜日

見出しの不適切が真意を損ねる:朝日紙のキャロル・グラックさんインタビュー記事


 2013年8月20日付け朝日紙「オピニオン」欄に「安倍政権と戦争の記憶」と題して、キャロル・グラックさんへのインタビュー記事が掲載されていました。キャロル・グラックさんは、米コロンビア大学教授で、同大学東アジア研究所に所属し、米国における日本近現代史、思想史研究の第一人者です。

 印刷版のこの記事には大きな活字で、それぞれ3行におよぶ中見出しが二つあります(インターネット版にはありません)。それらは次の通りです。
右傾化報道は極端
米国が支えた戦後
「脱却」は本意か

過去の行為の謝罪
世界の新常識に
国内問題視は誤り
問題は最初の中見出しのほうです。忙しい読者は見出しだけを見て内容を知ろうとするでしょう。その場合、「右傾化報道は極端」とあれば、グラックさんは、「日本のメディアが、安倍政権は右傾化していると報道しているのは極端です」と発言したと捉えてしまうでしょう。しかし、記事中のグラックさんの言葉は「日本に関する海外メディアの報道は極端で、しかも浅い」というものです。

 これは、「参院選でも大勝した安倍政権について、米メディアでも右傾化を懸念する意見が見受けられますが」というインタビューアーの問いかけに答えたものですから、グラックさんの「海外メディアの報道は極端」という言葉の中の「報道」には、「右傾化報道」も含まれてはいるでしょう。しかし、中見出しには、どこの報道かが表現されていないので、まず、一つの誤解のもとになります。さらに、次のような意味でも、誤解に導いていると思われます。

 グラックさんはこのあと、「憲法改正を目指すことは、自民党政権として別に新しいことではありません」とか「[『戦後レジームからの脱却』ということと]同種のことを言い始めたのも、別に安倍首相が最初ではありません」と発言しています。これを考えれば、グラックさんは日本の政治が以前から右傾化していることを認めていて、「参院選でも大勝した」結果、「急に右傾化した」と見るのが極端で浅い見方だと指摘していることになります。

 右傾化の道を長年進めば、極右ないしは極々右状態にたどりつきます。その時点で人々が驚き、あわてても間に合いません。日本のメディアは安倍政権の右傾路線を大いに批判すべきです。

 最初の中見出し2行目の「米国が支えた戦後」にも問題があります。この表現では、グラックさんは「米国は日本に対してよいことをしてきた」といったように取れますが、この中見出し部分に相当する記事中のグラックさんの言葉には「支えた」という言葉はなく、「[戦後]米国が、日本の記憶とシステムを『冷凍』していた」といっていて、むしろ、悪影響を及ぼしてきたといっていると取れます。

 二番目の中見出しは、グラックさんの「それ[戦争の記憶に対処する『謝罪ポリティクス』]は世界的な『新しい常識』です。自民党が国内政治として扱おうとしても、それとは別種の国際環境が存在している」という発言からきていて、問題ありません。これに先立って、グラックさんは「安倍首相を含む自民党の右派政治家たち」が「加害責任を否定することで、国内の支持をえようとして」きて、その姿勢がすぐに海外に流れることに気づいていないのは、「一種の『地政学的無神経』」と、強く批判しています。

 グラックさんは、「在日コリアンへの悪意に満ちたデモなど、ヘイト・ナショナリズムには懸念を持っています。これは安倍首相よりもはるかに危険です」「軍備に軍備で対抗するのは、ばかげています」という発言もしています。これらは、小見出しにでもして強調してほしかったところです。

多幡記

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