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2018年7月4日水曜日

忘れたくない故・加藤周一氏の言葉


 加藤周一さんは「九条の会」発足当時の9名の呼びかけ人の1人で、会で中心的な役割を果たされましたが、2008年に亡くなられました。その没後5周年に、『加藤周一最終講義』(かもがわ出版、2013年)という本が記念出版されました。筆者が他の何冊かの読了した本と一緒に、その本をそろそろ処分しようかと書棚から取り出したところ、1カ所にポストイットを添付してあることに気づきました。加藤さんが北京の清華大学で2005年3月30日に行った講義「私の歩み、人生の歩み」の、末尾にある「九条の会」と題する20行足らずの1章です。

 そこには、加藤さんが「九条の会」にかかわった理由が次のように述べられています。
 前の戦争のとき、[...]どうして止められなかったのか。[...]はたして東京は焼け野原になった。もういっぺん焼け野原になるのを黙って待っているのですか。あるいは、できるだけの力をふるって、また戦争できるように日本の経済と制度を変えていこうという動きに対抗しようとするのか。それ[対抗しようとする運動]が「九条の会」です。[...]書くだけではなくて、もう一歩踏みだした組織に初めてコミットしました。

 そして、昨今の「いよいよ憲法九条を変えて、軍備を大々的に強めようという考え方が前面に出て来て」いる情勢を憂えた老・加藤さんは次のように力強く宣言しているのです。
私はいま、少なくとも歩行できる程度の力が残っていれば、抵抗したいと思います。私は時々新聞に書きますから、書く時は「花鳥風月」ではなくて、「九条」に触れる。そこには一種の倫理的な意味があると思います。

 安倍9条改憲を阻止するためには、私たちにも、いまは「花鳥風月」ではなくて「九条」、の心構えが必要でしょう。

多幡記

2018年5月2日水曜日

22グラム冊子『日本国憲法』で憲法を知りましょう


 2018年5月2日付け朝日新聞が「憲法軽やかに:22グラム冊子に全条文 グッドデザイン賞—東京のデザイナー2人」という見出しで、横書きの蛇腹式、新書に挟んで持ち歩ける薄さ・軽さの憲法冊子を紹介しています。作成したのは保田卓也さん・三上悠里さん夫妻で、2017年度グッドデザイン賞を受賞しています。

 厚さ約3ミリ、常に持ち歩けるサイズながら、書き込みの余白もあり、全文と全条文を一覧できて、気になる条文を見つけやすい、と紹介されています。

 夫妻は東京都内で勉強会「憲法のきほん」も開催しています(会のフェイスブックは https://www.facebook.com/kenponokihon/)。冊子は800円(送料別)。上掲の冊子イメージをクリックすると出るウェブサイトに、さらに詳細な紹介があり、そのサイトで購入もできます。

2015年9月3日木曜日

お知らせ:『ニュースレター九条科学者(企画案内他)』2015.9.2号


9状キュウリ(九条科学者の会ホームページから)。

 2015年9月2日付け『ニュースレター九条科学者 (企画案内他)』が届きました。以下に内容を転載して、お知らせします。



1.「安全保障関連法案に反対する学生と学者による街宣行動」
 日程:9月6日(日)15:00〜17:30
  15:00〜16:00 学生と学者によるスピーチ&パフォーマンス
  16:00〜17:30 政治家によるスピーチ
 場所:新宿伊勢丹前・歩行者天国
    (雨で歩行者天国が中止の場合は、新宿駅東口)
 参加予定の政治家:蓮舫 民主党代表代行/
  志位和夫 日本共産党委員長/吉田忠智 社民党党首/
  二見伸明 公明党元副委員長(9/2現在)
 主催:SEALDs・安全保障関連法案に反対する学者の会
 http://anti-security-related-bill.jp/

2.「早稲田から止める!戦争法案 安保関連法案に反対する
  早稲田大学全学集会9・6」
 http://www.waseda9.org/
 日時:9月6日(日)13:00〜15:00
   (終了後、大隈講堂〜高田馬場駅までデモ行進!)
 場所:早稲田大学・早稲田キャンパス14号館1階101教室
 講演:水島朝穂氏(早稲田大学法学学術院教授)
    『立憲主義の「存立危機事態」にいかに向き合うか
     ——安保関連法案は廃案以外に選択肢はない—— 』
 応援挨拶:白井聡氏(政治経済学部卒、現在、京都精華大学
  専任講師)
 連帯の挨拶:
  川島堅二氏(恵泉女学園大学学長)
  楜澤能生氏(早稲田大学法学学術院)
  小原隆治氏(早稲田政経有志の会)
  田村智子氏(参議院議員、一文卒)
 各界卒業生からのメッセージ:
  道浦母都子氏(歌人、一文卒)の歌
  澤地久枝氏(作家、二文卒)
  辻元清美氏(衆議院議員、教育卒)
  やくみつる氏(漫画家、商卒)(予定)
  吉永小百合氏(俳優、二文卒)

3.「安保法案 東京大学人緊急集会」
 日時:2015年9月8日(火)18時開始
 場所:東京大学本郷キャンパス(500人規模)
 登壇者:
  広渡清吾氏(専修大学法学部教授、元東京大学副学長、
   元日本学術会議会長)
  石川健治氏(東京大学法学政治学研究科教授)
  栗田貞子氏(千葉大学文学部史学科教授)、ほか
 主催:「安保法案 東京大学人緊急抗議集会・アピール」
  実行委員会
 協賛:九条科学者の会
 http://todaijinshukai.web.fc2.com/index.html

4.「安保関連法案と憲法を考える研究会」
  (横浜国立大学九条の会)
 小林節先生(憲法学)に聞く
 日時:2015年9月3日(木)17時30分開場、18時開演
 場所:横浜国立大学、教育文化ホール大集会室
 講師:小林 節 先生(慶應義塾大学名誉教授・憲法学)
  昨年の「集団的自衛権」容認の閣議決定・今夏の強行採決に
  よる安保関連法案の衆院通過。緊迫した政治状況を前に、こ
  の国の来し方・行く末に思いをめぐらしている方も多いこと
  でしょう。このたび、6月4日衆院憲法審査会の席上「安保法
  案は違憲!」という衝撃的発言を行った3人の憲法学者の一
  人である小林節先生をお招きすることになりました。この国
  の行方を左右する重大な問題について、たしかな理解を共有
  し、自分の意見をもてるようになるための機会にしたいと思
  います。
 主催:横浜国立大学九条の会
 どなたでも参加できます。
 参加費:無料(事前予約不要)
 問合せ:山崎圭一 国際社会科学研究院教授(同会事務局)
    Eメール:keiichi.yamazaki@nifty.com
    横浜国立大学九条の会フェイスブック・ページ:こちら

5.「安保法制とこれからの日本−−憲法9条と東アジアの平和の
  枠組み」(仮)
   九条科学者の会秋の講演会
 日時:2015年11月14日(土)13:30〜17:00
 場所:中央大学理工学部・後楽園キャンパス5号館の5233教室
  (予定)
 講師:大藤紀子氏(獨協大学)、小澤隆一氏(東京慈恵医大)
 資料代:500円(予約不要)

6. ミニ情報—当会の発起人でもある益川先生の新著で九条科学者
  の会が取り上げられています。
 ノーベル物理学賞の益川敏英さんが、ご自身の戦争体験と研究
 活動を振り返りながら、科学者の戦争での役割について書かれ
 た新書が集英社より出版されました。そのなかで「九条科学者
 の会の設立」として当会と益川さんとの関わりが詳しく書かれ
 ています。ぜひご一読を。
  益川敏英『科学者は戦争で何をしたか』集英社新書
  http://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/0799-c/



(文責・多幡)

2015年6月1日月曜日

『今日の軌跡』:書籍紹介


 元・大阪空襲訴訟原告団代表の安野輝子さん(堺市西区在住)から、下記のようなメールを貰いましたので、引用して紹介します。



みなさま、お元気でしょうか。

元・大阪空襲訴訟を支える会の三浦千賀子さんが、『今日の軌跡』と題して、この3年間のまとめの詩集を竹林館から出版されました。

三浦さんの、やわらかいこころ、優しい言葉でつづられていて、人間へ自然へ社会へと誘われます。一気に読みました。

おわりの方のページに「棄民」という一編が載っていました。大阪空襲訴訟の口頭弁論を傍聴にいつもきていただいていました。そのことが書かれています。勇気、元気、優しさがわいてきます、お読みいただきたいと思います。

三浦さんは、ご自身も足にハンディがおありで、中学校支援学校をリタイアされて堺にお住まいです。たまにお会いすることがあると励まされています。

[…以下略…]



[引用者の注:上記のメール本文のあとに、詩「棄民」を引用してあります。版権を考慮して割愛しますが、末尾に、題名のもとになっている、「裁判所は国家に加担してまたもや棄民をした」という言葉があることを紹介しておきます。]

(文責・多幡)

2015年3月11日水曜日

「平和は歩いてきてはくれない」――作家の早乙女勝元さん、朝日紙「声」欄で


 作家の早乙女勝元さんが、東京大空襲の日に当たる3月10日付けの『朝日新聞』投書欄「声」に、「平和は歩いてきてはくれない」と題する一文を寄せています。早乙女さんは、1970年、30代だったときに、岩波新書の『東京大空襲』を一気に書き上げたことを振り返り、人生の終盤においてなお、「言わねばならないことを、言わないままにしてはなるまい」として、次のように訴えています(全文はこちらでご覧になれます)。

国が始めた戦争は国が責任を取るべきなのだ。にもかかわらず空襲被害者を遠いかなたに置き去りにしたまま、国は「いつか来た道」へと暴走を加速させている。民間人の戦禍は「風化」させられてきた。…[中略]…あの日あの時の声なき声を語り継ぎ、次世代が二度と戦火の下を逃げ惑うことを許さぬ明日のために、もう一踏ん張りと心している。平和は歩いてきてはくれない。

 なお、早乙女さんの本『東京大空襲』は、東京大空襲訴訟で明らかにされた新事実も付録として収めた上で、このたび復刊されたそうです(こちらに復刊情報があります)。

多幡記

2014年12月17日水曜日

憲法、読んだってや〜:「大阪おばちゃん語訳」で身近に — 朝日紙


 フェイスブック上のグループ「全日本おばちゃん党」を主宰する谷口真由美さんが、「まずは憲法を知ってや〜」という思いをこめて、『日本国憲法 大阪おばちゃん語訳』(文芸春秋、税込1188円)を出版しました。朝日新聞が、2014年12月16日付け大阪版朝刊の社会面で報じています。

 インターネット書店・アマゾンが掲載している紹介によれば、
  • 戦争は棄てましてん(9条)
  • 人権ってええもんちゃう?(11条)
  • しあわせって何やろか?(13条)
  • 憲法は誰のモン?(99条)
など、はじめから終わりまで大阪弁のおしゃべり言葉で書かれた本書は、抱腹絶倒のうちに、憲法を驚くほどよく分からせてくれるそうです。

 著者の谷口さんは、大阪国際大学准教授で、専門分野は国際人権法、ジェンダー法など。非常勤講師を務める大阪大学での大阪おばちゃん語による「日本国憲法」講義は、人気が高く、一般教養科目1000科目の中から生徒の投票で選ばれる "ベストティーチャー賞" こと「共通教育賞」を4度受賞しているとのことです。

(文責・多幡)

2014年7月29日火曜日

若い人に読んでもらいたい『憲法手帳』1700冊普及:横浜市旭区「九条の会」


 表記題名の記事が2014年7月28日付け『しんぶん赤旗』に掲載されました。記事のイメージをこちらでご覧になれます。

 また、この記事の『憲法手帳』を仲間と一緒に作った横浜市旭区「九条の会」の事務局長・池田靖子さんへのインタビュー記事「『憲法手帳』に想いを託して」が、法学館憲法研究所ウェブサイトの『今週の一言』欄に掲載されています(2014年6月30日付け)。その中で、池田さんは次のように語っています。

 「自分たちの思いを込めた『手離しちゃ、ダメなんだよ』というキャッチコピーと共に、かわいい青空カラーのデザインの手帳を作ったのです。そして手帳のあちこちに、美しいイラストとキャッチコピーをいれました。」

 「ターゲットとしては、中学生まで考えました。場合によっては、小学生にも読んでもらいたい。そのために、漢字にはルビを振りました。ええ、すべての漢字にです。そして、各条文にタイトルを入れようという話になりました。すべての条文にタイトルを入れ、内容を理解しやすい形にしたのです。」

 「いま、この憲法を広めるチャンスなのかもしれません。情勢が厳しく、国を動かす政治家もこぞって改憲に靡いていますが、市民レベルで憲法に対する意識をしっかり持つことが大切だと思います。私たちは市民ですから、押しつけではなく地道に、かつ断固として行動していきたいと考えています。」

多幡記

2014年7月27日日曜日

アイドルが学んだ日本国憲法:『憲法主義:条文には書かれていない本質』


 2014年7月27日付け朝日紙「天声人語」欄は、「アイドルが憲法を学んだ」という話を紹介しています。AKB48のメンバー・内山奈月さんが生徒役になり、九州大准教授の南野森(みなみのしげる)さんに憲法を講義して貰い、その講義録が二人の共著の形で、『憲法主義』という本になったそうです。

「天声人語」子は、「一読して生徒役の知識と思考力に驚く」、「質問も鋭い。結果、ファン向けだけではない、本格的な入門書に仕上がった」、「[南野さんは]憲法への無理解が大手を振る現状に危機感を強め、引き受けた。その思いは優れた聞き手を通じ読者に届くに違いない」などと絶賛しています。

『憲法主義』(PHP研究所、2014年)のアマゾン書店の紹介ページは、こちらでご覧になれます。

多幡記

2014年7月17日木曜日

カメラマン小原一真さんが大阪空襲訴訟原告の写真集を製作


 大阪空襲訴訟原告の写真集を製作しているカメラマン小原一真(おばら・かずま)さんが、このほど、その手作り写真集を "SILENT HISTORIES"(沈黙の歴史)と名づけて発行する運びとなりました。小原さんは、同写真集を下記のウェブページで紹介していますので、ぜひご覧下さい。海外へも紹介するため、ウェブページ1の説明は英文と和文、2は英文になっています。2の中のビデオでは、全ページが紹介されています。
  1. http://kazumaobara.tumblr.com/post/91606935974/my-first-handmade-photobook-silent-histories
  2. http://reminders-project.org/rps/silenthistoriessaleen/?fb_action_ids=10203469677395570&fb_action_types=og.likes&fb_ref=.U8MaxRTXuBo.like

 大阪空襲訴訟原告の人たちは、自分たちのような苦しみをのちの人びとが受けることがないようにとの思いで、訴訟に取り組んでいます。それにもかかわらず、いま、安倍政権は戦争の出来る国づくりへとまっしぐらに進もうとしています。このような危険な政治の流れを、私たちは一刻も早く止めなければなりません。

多幡記

2014年6月4日水曜日

日野原さんが子どもたちに憲法9条を伝えたいと出版:『十代のきみたちへ―ぜひ読んでほしい憲法の本』


 102歳のいまも多忙な活動を続ける現役医師で聖路加国際メディカルセンター理事長の日野原重明さんが、このほど『十代のきみたちへ―ぜひ読んでほしい憲法の本』(冨山房インターナショナル)を刊行しました。日野原さんが、小学校などを回り、10歳の児童らに向けて「いのちの授業」を展開してきた活動の一環です。

 なぜ憲法を題材にしたのかについて、日野原さんは2014年5月31日付け朝日紙の「102歳・私の証:あるがまゝ行く」欄(デジタル版はこちら)で、次のように説明しています。
 知的な生き物である人間は、互いの生命を尊重する、たとえば国家間などで戦争、紛争をしないと約束することが可能です。本能の赴くままに奪い合い、殺し合い、自らの住む社会や世界をみすみす破滅に陥れるほど、愚かな動物ではありません。

 どの国にも、それぞれの憲法があります。憲法に基づいた政治を行うことを立憲政治と言います。その国に憲法があるということは、その国の国民の権利と自由が守られている指標であり、国際社会から「一定の良識を持った国」と見なされる一助となります。

 日本国憲法は終戦後、連合国軍総司令部(GHQ)の指導のもと、国会が決めたものです。中でも重要なのは、以下に示す憲法第9条です。

 [憲法第9条の条文は省略]

 今の憲法を「米国の押し付けで、変えるべきだ」と言う人の多くは、この9条を問題にしています。ですが9条には「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し」「前項の目的を達するため」など、日本側の意向も組み込まれているのです。
 傾聴すべき言葉ではありませんか。

多幡記

2014年2月14日金曜日

書籍紹介—『検証 防空法:空襲下で禁じられた避難』—


 安野輝子さん(堺市西区)から次のメールが届きましたので紹介します。

 私たちの大阪空襲訴訟も最高裁上告中ですが、判決が待たれる頃となりました。
 このたび、早稲田大学教授・水島朝穂さん(法学博士)と大阪空襲訴訟弁護団の大前治弁護士が、『検証 防空法:空襲下で禁じられた避難』という本を出版されました。
 水島さんは、2011年2月28日午後から2時間にわたっての証人尋問で証言された方です。証言を通じて、政府による情報操作や無責任体制が国民を重大な被害に巻き込んでいく過程が明らかにされました。その11日後に起こった東日本大震災と原発事故による国民の被害(そして政府の責任)を予言するかのような法廷でした。
 大前弁護士は、アメリカではなく日本政府の法的責任を問う私たちにとって、 戦時中の政府の行為を具体的に分析して主張することが不可欠とされました。その一要素として、「防空法制」に光を当てたことは、今後の立法運動においても重要な成果だと思います。
 『検証 防空法』を多くの方に読んでいただきたいと思います。
安野

 なお、『検証 防空法:空襲下で禁じられた避難』についての詳しい案内サイトがこちらに、また、アマゾンの同書情報ページはこちらにあります。

(文責・多幡)

2013年11月3日日曜日

『日本の科学者』11月号特集「安倍政権を問う—改憲と歴史認識」(3)


 前2回に続いて、日本科学者会議の論文誌『日本の科学者』2013年11月号特集「安倍政権を問う—改憲と歴史認識」の論文を、その要約を引用して紹介します。なお、同誌は書店あるいは発行元「本の泉社」の通販サイトで購入できます(税込み600円)。

 韓 冬雪「安倍政権の歴史認識と改憲問題──アジア諸国から見た安倍政権の危うさ」:アベノミクスを掲げて再登場した安倍政権は、政治的には危うさを秘めている。彼の政治理念は保守主義と民族主義にもとづいている。歴史認識では、近代日本の侵略の歴史を否定し、戦争責任を追及した東京裁判の意義を認めない。日本が加害国となった侵略戦争を否定したのでは、被害国であるアジア諸国や中国との信頼関係は構築されないであろう。

 宋 柱明(訳・金 美花)「参議院選挙後の右翼国家主義的政治地図──韓国の進歩的観点による分析と提言」:衆参両院で保守勢力が3分の2以上を占めたことを受け、自民党は軍事大国化に向かう国家主義戦略に拍車をかけるであろう。保守支持の社会的背景として生活の危機に瀕した青年層の自発的「右翼化選択」という現象がみられる。これにたいし[筆者は本稿において、]日本の集団的経験にもとづく歴史認識をふまえた市民の「進化した民主主義」を求めた。(注:[ ]内は、分りやすくするため、引用者が挿入。)

 小林義久「オバマ政権と歴史認識問題──安倍政権をどう評価しているか」:安倍政権下で歴史認識問題が再燃している。「戦後レジーム」からの脱却を掲げ、日本国憲法改正を目指す安倍政権の集団的自衛権容認に向けた憲法解釈見直しや靖国神社参拝などの動きに中国、韓国が反発しているためだ。オバマ米政権も安倍政権が国家主義的な傾向を強めれば、東アジアの安全保障体制だけでなく、第2次世界大戦後の国際秩序を揺るがしかねないと警戒し始めた。

 以上で、『日本の科学者』11月号特集論文の紹介は終わりです。

(文責・多幡)

2013年11月2日土曜日

『日本の科学者』11月号特集「安倍政権を問う—改憲と歴史認識」(2)


 前回に続いて、日本科学者会議の論文誌『日本の科学者』2013年11月号特集「安倍政権を問う—改憲と歴史認識」の論文を、その要約を引用して紹介します。なお、同誌は書店あるいは発行元「本の泉社」の通販サイトで購入できます(税込み600円)。

 石田勇治「悪しき過去との取り組み──戦後ドイツの『過去の克服』と日本」:過去の戦争と植民地支配に起因する「歴史問題」がいまだに近隣諸国との関係に重くのしかかる現在の日本は、かつての同盟国ドイツの戦後史から何を学ぶことができるだろうか。第二次大戦を首謀し、ホロコーストを実行したドイツは、戦後、いかにして失った国際的信用を取り戻したのだろうか。本稿は、ドイツの悪しき過去との取り組みを中心に、日独の戦後を分ける諸要因を検討する。

 中塚 明「『明治の戦争』と日本人の記憶」:われわれは明治以後の歴史を見るとき、「明るい明治」vs「暗い昭和(前半)」として見ていないか。日清戦争・日露戦争を「防衛戦争」として「明治の栄光」を讃える言説が、日本人の歴史認識をどれほど歪めているか——そのことを考える。

 残りの論文の要約は、次回に掲載の予定です。

(文責・多幡)

2013年11月1日金曜日

『日本の科学者』11月号特集「安倍政権を問う—改憲と歴史認識」(1)


 日本科学者会議の論文誌『日本の科学者』2013年11月号が、「安倍政権を問う—改憲と歴史認識」と題する特集を組み、7編の論文を掲載しています。以下に、それらの論文の要約を引用して紹介します。なお、同誌は書店あるいは発行元「本の泉社」の通販サイトで購入できます(税込み600円)。

 大藤紀子「歴史と担い手を欠いた憲法」:2012年に提示された自民党の「日本国憲法改正草案」は、ありうる憲法のヴァリエーションの一つという意味での憲法の改変や、憲法の提示する世界観、憲法の有する性質の変更の提案にとどまるものではない。社会における憲法の位置づけを抜本的に変更し、それが具備すべき本来の機能を停止させるものである。本稿では、「改正草案」と日本国憲法との比較を通じて、かかる草案が描く憲法像を浮き彫りにしたい。

 古関彰一「自民党改憲案の歴史的文脈」:本稿は、憲法制定以降今日の安倍政権に至る改憲問題を歴史的に扱うとともに、日米安保条約の問題性をも考察するものである。憲法改正問題は、自衛隊の創設、自由民主党の結党を起点としている。しかし、60年代半ばに改憲の企図はいったん挫折したが、自民党は、戦争放棄条項の削除を中心に天皇制の強化、人権制限を一貫して改憲の柱としてきている。今日の改憲問題は、冷戦後の安全保障状況と一体化して、将来の日本の平和に問題を投げかけている。

 他の論文の要約は、次回以後に続いて掲載の予定です。

(文責・多幡)

2013年10月11日金曜日

読書シーズンに(2)


 2013年10月6日付け『しんぶん赤旗』に、憲法9条に関係する次の本が紹介されていました。

 品川正治(しながわ・まさじ)著『戦後歴程:平和憲法を持つ国の経済人として』(岩波書店、2013年、1,890円)
評者は「九条の会」事務局長・東京大学大学院教授の小森陽一さんで、次のように賞賛しています。
 戦後日本社会を、「憲法九条」と「日米安保」との相克の歴史ととらえ、「憲法九条の旗はボロボロに破れても旗竿は国民がしっかり握り続けて守らなければならない」と訴えてきた経済人の遺書となった、渾身(こんしん)の自分史であり、世界の中の日本史である。[…]中国の激戦地での戦場体験と復員船での憲法九条との出会いの叙述中に、著者にとっての根本的な人生の選択の姿勢が刻まれている。

 青井未帆著『憲法を守るのは誰か』 (幻冬舎ルネッサンス新書 あ-5-1、2013年、880円)
この本については「ほんだな」欄に簡単に紹介してありました。日本国憲法と自民党の改憲草案を比較しながら、草案の問題点を明らかにしているということです。また、通常兵器の国際取引を規制するはじめての包括ルール「武器貿易条約」の国連での成立に、日本が貢献できたのは、憲法9条があるからだと指摘されているそうです。

多幡記

2013年10月2日水曜日

読書シーズンに


 今年の憲法記念日前後や参院選前に、新聞の書評欄は憲法や改憲論に関する本を紹介していました。本ブログでは、それらの書評を紹介する機会を逸していましたが、読書シーズンを迎えるいま、それらを振り返って、いくつか紹介してみます。

 きょう取り上げるのは、2013年4月28日付け『朝日新聞』の「ニュースの本棚」欄に掲載された「憲法改正論:多数決で決められないこと」と題する、坂口正二郎・一橋大学教授(憲法学)の記事が紹介している本です。

 記事の題名には「憲法改正論」とありますが、坂口さんは、自民党の憲法改正草案や、改正手続きを定めた96条を変えて憲法改正を容易にしようという動きを、鋭く批判する立場で話を進めています。紹介されている本は次の4冊です(各書名をクリックすると、アマゾン書店ウェブサイトのそれらの本の情報ページが、別ウィンドウに開きます)。


 憲法「改正」に反対して、「立憲主義」ということがよくいわれます。立憲主義思想とは、「国家は諸個人が自由を守るために設立した人為的な存在にすぎず、その国家を憲法によって縛ろうとするもの」と坂口さんは説明し、この思想の根源となる論を展開したジョン・ロックの『完訳 統治二論』にふれています。

 坂口さんは次いで、明治期の日本が西欧の立憲主義を取り入れようと苦闘してきたことや、個人の尊重を核とする立憲主義思想が現在世界中に拡大していることを述べ、そのような流れを説いている本として、樋口陽一の『個人と国家』を挙げています。そして、国家が主役で国民は脇役とする自民党の改正草案は、過去の日本の苦悩を共有せず、世界の流れにも背を向けるもの、と批判しています。

 96条変更の動きについて、坂口さんは、多数決でも変えられない憲法が正当化できる理由を述べています。そのたとえとして出される、オデュッセイアが魔女セイレンの誘惑から部下と自身を守るために自分の身体をマストに縛り付けた話の載っているのが、ホメロスの『オデュッセイア』です。このように「あらかじめ自己の行動の幅を狭めておくことは合理的」であり、また「民主主義の前提条件まで多数にゆだねるのは矛盾」であると、坂口さんは主張しています。

 そして、長谷部恭男の『憲法とは何か』は、「個人が決めるべきこととみんなで決めるべきことの境界を定めることが憲法の役割だとしている」と紹介し、「憲法を変える前に、まずは憲法の役割を考える必要がある」と訴えています。

 なお、坂口さん自身は、『立憲主義と民主主義』(日本評論社、2001年、5,145円)という本を書いています。

多幡記

2013年9月30日月曜日

『日本国憲法を口語訳してみたら』など3冊:憲法を身近なものにする本


 インターネット上で評判になった憲法の「超・口語訳」(2013年5月14日付け本ブログの記事で紹介)が、先般、塚田薫著・長峯信彦監修『日本国憲法を口語訳してみたら』として、幻冬社から出版されました。2013年9月29日付け『しんぶん赤旗』読書欄の「口語訳や『萌えキャラ』で日本国憲法を読んでみる」という記事が、次のように紹介しています。

 『日本国憲法を口語訳してみたら』は、法学部で学ぶ大学生が、前文や条文を分りやすい日常語で口語訳したものです。たとえば、第13条はこうなります。
俺たち国民は、みんな個人としてちゃんと扱われる価値があるし、すべての人は自分なりの幸せを追い求める権利があるんだ。このためにこそ、政治家はがんばってくれよ。でも国民も権利があるからといって、横着はすんなよ。お前に権利があるように、人様にも権利があるんだからな。
確かに、分りやすくて、面白くなっています。一見やさしく書き換えているだけのように見えますが、憲法の原文にあるキーワードなどは,なるべく原型を残し、概念がゆがまないように口語訳したとのことです。(紹介文は若干の省略と書き換えをしました。なお、著者の塚田さんは、単行本発行に当たって、「現行のネット版からは、かなり変っています。いうならばバージョン2」という旨をブログに書いています。)

 上記の記事は、このほかに、森田優子著・法学フユーチャー・ラボ編『Constitution Girls 日本国憲法 萌えて覚える憲法学の基本』(PHP研究所)と『日本国憲法』(小学館)を紹介しています。前者は、さまざまなコスチュームのキャラクター(萌えキャラ)が各条文を語り、隣ページでその条文の意味と背景、判例や論点などを解説しており、イメージから憲法を理解していけるように書かれたユニークな本、と評されています。また、後者は、たくさんの写真を条文の間に盛り込んでいて、子どもたちが、憲法と私たちの暮らしの深いつながりに気づいていけるようになっている、と紹介されています。

 これらの本の紹介記事を書いた西村美智子さん(教員)は、文末に、「大勢の人が『日本国憲法』の崇高な理念と一言一言の深い意味に気づき、主権者として賢明な判断・選択をしてほしいと願う」と記しています。

多幡記

2013年8月19日月曜日

「戦争は、政治の失敗と非日常的倫理・道徳の空間」:保阪正康氏


 敗戦の日を前にした8月11日の朝日紙「ニュースの本棚」欄に、ノンフィクション作家の保阪正康さんの「戦争観と戦後史:老・壮・青はどう見てきたか」と題する文が掲載されていました。

 保阪さんは「戦争」についての基本的な理解は二つの点にしぼられるとして、カール・フォン・クラウゼヴィッツの有名な言葉「戦争は政治の延長」をかみくだいた、戦争は「政治の失敗」に起因するということと、戦争は「非日常の倫理・道徳が支配する空間」ということを、まず述べています。そして、この理解の上に立って、「まっとうな戦争観を真摯(しんし)に確認するために今読むべき書」として、「老壮青という三つの世代が読んできた書」を紹介しています。

 「老」の世代の書としては、吉田満(1923年生まれ)の『戦艦大和ノ最後』を挙げ、国家の歯車でよしとする兵学校出身者と、それだけではあるまいと反論し、戦争を「政治の失敗」とみる意識のある学徒兵の論争の場面に、「戦争の本質が凝縮している」と評しています。

 「壮」の世代の書としては、小田実(1932年生まれ)の『「難死」の思想』を挙げています。「散華(さんげ)」(筆者注:本来は仏教上の言葉ですが、誤って、戦死を美化する表現に用いられています)ではなく「難死」ともいうべき多くの人の戦争被災死について、小田が「私はその意味を問い続け、その問いかけの上に自分の世界をかたちづくって来た」と書いて、「真の戦争観の確立をわれわれは成し得ているかとの問いをつきつけ」ている、と紹介しています。

 「青」の世代の書として、加藤陽子(1950年生まれ)の『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』(上掲のイメージはそのカバー)を挙げ、「中高生に日清戦争から太平洋戦争までの近代日本の戦争の内実を平易に語っている」と紹介し、また、「加藤の姿勢には戦争の二つの基本的な理解につながる誠実さがある」と評しています。そして、「三つの世代がそれぞれの世代の書にふれることで、戦争観はより強固な戦後史として定着していく」と結んでいます。

 「三つの世代がそれぞれの世代の書にふれる」のは、ある程度自然な成り行きでしょうが、三つの世代がそれぞれの世代を超えた書にふれるように努めることも重要でしょう。筆者は生年からいえば、小田実の世代に属しますが、上記の加藤陽子の書を、いまは亡き丸谷才一のエッセイ「史料としての日記」[『図書』No. 746, p. 32 (2011)]が絶賛しているのを読み、その書を読んでみたいと思いながらも、まだその思いを達成していません。丸谷が、一点においてだけ、加藤の記述に異論を唱えていることに興味をいだき、そのエッセイの掲載号をまだ廃棄していませんでした(ここに、その異論を紹介すれば、廃棄できることになります)。

 異論の対象になっているのは、加藤が「いろいろな業種の日本人五人[政治学者・南原繁、中国文学研究者・竹内好、小説家・伊藤整、山形県の農民・阿部太一、横浜の駅員・小長谷三郎]の、日米開戦に際しての感想を引き、うち一人[南原繁]のものを除いてはこの戦争に好感を抱いている、彼らはこのいくさを歓迎したと判定」(丸谷の文から。[ ]内は説明のため、同じ文の他の箇所から筆者が拾って挿入)しているところです。丸谷は、竹内好の文章は大東亜戦争賛美に名を借りて日中戦争を非難する方に力点をかけてあると見、伊藤整の日記については大東亜戦争それ自体を賛美し肯定しているわけでなく慎重に言葉を選んで書いていると見て、そういうところを「感じ取ってもらいたかった」と述べ、この好著を惜しんでいました。

 ところで、保阪さんの「非日常の倫理・道徳が支配する空間」という言葉をいい換えれば、「狂った空間」ということにもなるでしょう。そして、保阪さんの「戦争についての二つの基本的理解」をもとにして考えれば、軍備の増強・拡張を進める政権は、自らの失敗を予想して、「狂った空間」を作り出すことに精を出しているいるものといえましょう。いまの安倍政権は、集団的自衛権の容認や、憲法改悪によって、まさにそういう愚かな政策を進めようとしているではありませんか。私たちは、これに対して No! をつきつけなければなりません。

多幡記

2013年7月15日月曜日

『私たちは原発と共存できない』:日本科学者会議がブックレット発行


 日本科学者会議はこのほど、『私たちは原発と共存できない』と題するブックレットを発行しました(合同出版、A5判、71ページ、600円+税)。原発問題がかかえる多面性と原発廃止への方向性を明確に意識した次の七つの章(18人の執筆者)からなっています。

  • Ⅰ いのちとくらしの安全
  • Ⅱ 事故の責任問題と損害賠償責任
  • Ⅲ 原発ゼロでエネルギーと地域経済はどうなるか
  • Ⅳ 建設された原発・ストップした原発
  • Ⅴ 収束しない危機の中にある福島第1原発
  • Ⅵ 私たちは原発と共存できない
  • Ⅶ いま、研究者の生き方を問う

 原発事故に対する政府の「事故収束宣言」とは裏腹に、事態の改善の見通しがまったく立っていない現状のもと、政治家、政党、政府に原発廃止の決断を迫る運動の前進に役立つブックレットとして、学習会・勉強会に最適です。

 (本書についての、『日本の科学者』Vol. 48, No. 8, p. 53 掲載の満川常弘氏の書評と合同出版ウェブページを参考にしました。)

多幡記

2013年6月27日木曜日

トルストイの作品に見る憲法9条の精神


 若い頃に好きだったロシアの小説家、レフ・トルストイの作品を最近また読んでいます。目下読んでいるのは、『五月のセワストーポリ』。1853年からロシアがオスマン帝国、そして、これと同盟を結んで参戦してきたイギリスとフランスを迎え撃って戦ったクリミア戦争の舞台となったセワストーポリの状況を描き、戦争の無意味さを訴えた3部作中の第2作で、1855年、トルストイが27歳のときの作品です。

 冒頭近くに次の言葉がありました。
外交によって解決されぬ問題が、火薬と血で解決される可能性はさらに少ない。
 これはまさに、憲法9条の精神です。先哲の教えを重んじることなく、集団的自衛権の行使を認め、憲法9条を変えて、軍事対抗主義に走ろうとする政治家たちがいることは、実に情けない状況といわなければなりません。

多幡記