2013年9月28日土曜日

安倍首相の「積極的平和主義」は平和学への無知を示す


 安倍首相が先日、アメリカの保守系のシンクタンク「ハドソン研究所」が開いた会合で英語で演説し、集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈の見直しに理解を求めた上で、「積極的平和主義」の立場からアメリカと連携して世界の平和と安定に貢献していく決意を示したことが報道されました( 9月26日付け NHK ニュース「首相 『積極的平和主義』で世界に貢献」など)。

 報道によれば、首相のいう「積極的平和主義」とは、わが国が集団的自衛権を容認し、アメリカとの軍事的連携を強めていくことなのです。このような、武力に頼る政策は、「平和主義」の名に値しないのではないでしょうか。

 平和学が専門の立命館大学名誉教授・安齋育郎さんの「今、『平和』はどうとらえられているか?」という説明によれば、「戦争のない状態」という意味での平和は、「消極的平和」と呼ばれ、こんにちでは、「平和」の概念はもっと広くとらえられ、「構造的暴力のない状態」を「積極的平和」と位置づけるようになっているということです。そして、「構造的暴力」については,次のように説明されています。

 ノルウェー出身の平和研究者であるヨハン・ガルトゥング博士は、人間の能力が全面的に開花するのをさまたげている原因を「暴力」と呼び、それが、社会のありように根ざしている場合には、「構造的暴力」と呼びました。飢餓・貧困・社会的差別・不公正・環境破壊・差別・教育や医療政策の遅れなどによって人間の能力の開花が妨げられるならば、一人ひとりが豊かに自己実現を遂げることができません。

 現在、多くの平和研究者が、このような「自己実現が妨げられている状態」は「平和ではない」と考えるようになってきており、現代平和学は、「直接的暴力」だけでなく、「構造的暴力」のない社会、すなわち「積極的平和」の保たれる社会を実現するための実践的な研究だと考えられているのです。

 平和学のこのような「積極的平和」の意味からいえば、安倍首相の「積極的平和主義」発言は、平和学に全く無知であることを世界にさらけ出したものといわなければなりません。

 なお、首相の発言は、マスコミがその危険な狙いを報道していない、日本国際フォーラムの提言「積極的平和主義と日米同盟のあり方 」(2009年10月)に基づいていることが、インターネット上で指摘されています。

 (安倍首相の「積極的平和」の誤用については、フェイスブックの友人 A・Y さんの指摘で気づかされました。ここに記して、感謝します。)

多幡記

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