2014年7月27日日曜日

詩・浅井千代子(本会世話人)


  その一

世紀が代わっても
軍靴は進んで往く
自由のため?
平和のため?
テロ撲滅のため?
だのに何故
人間丸焼の炭が出来たり
大地をべっとり血で染めたり
もがれた手足が丸太のように転がったり
奇形の赤ちゃんが
次々生まれるのだろう

嘘で型どられ
嘘で縫い合わされた
軍靴を履いて
砂漠であろうと
ジャングルであろうと
野望に取りつかれた男達は
何のためらいもなく突き進み
世界制覇を企む
地球の悲鳴を踏みにじって


 その二

まだ革の匂いが残っていそうな
真新しい軍靴を履いた
膝から下の片足が
稲刈りの終った田圃の中に転がっていた
丈夫そうな靴ひもを
しっかり結んだまま

撃ち落とされた
アメリカのB29戦闘爆撃機は
鉄の残骸となり
遠くの方にその巨体を横たえていた
身体は? 首は? 手は?

その大きな
軍靴を履いた片足が
わたしが初めて見た
アメリカ兵であった
十四歳の時であった


  その三

新しく連句の会に入ってきた
Aさんは
左足膝から下が義足である
第二次世界大戦のとき
九州で空襲に会い
足はどこかへ消えてしまったのである
まだ幼稚園だったAさんは
いつか失った足が
トカゲの尻尾のように生えてくると
信じて疑わなかったそうである

失った足は失ったまま
今Aさんは寝る時
枕元に義足を置くのを習慣にしている
時々うっかりして
お風呂の脱衣室に忘れるのよ
と屈託なくほほ笑む

玄関に
右左揃えてAさんの
スニーカーがある
生きている足と
血の通っていない義足に
Aさんは同じように
労わりの手で
靴を履かす

(国はAさんのような一般戦傷者には何の補償もせず、
 Aさんは普通の障害者四級である)
『異郷』から

挿絵・多幡達夫

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