2012年11月25日日曜日

本:『沖縄』『ヒトラーの国民国家』『低線量汚染地域からの報告』


 わが家では『朝日新聞』と『しんぶん赤旗』を購読していますが、最近は政治記事だけでなく、書評などの文化記事でも、前者には魅力のあるものがきわめて少ないと感じています。体制順応的な編集方針がそこまでも影響しているのでしょう。表記の題名の本は、いずれも後者の書評欄(11月18日付け)で知ったもので、いま大いに注目すべき問題を扱っています。

 『沖縄:日本で最も戦場に近い場所』(毎日新聞社、2012)の著者、吉田敏浩氏は、沖縄の人々の生の声を丹念に伝えるだけでなく、なぜ戦争の構造がいま存在しているかの背景に切り込んでもいます。「時宜に適し鋭く急所を衝いた正義の書」であると、新原昭治氏(国際問題研究者)は評しています。沖縄の人々の苦しみをどうすれば取り除くことができるかは、日本の国民全体が考えるべき問題です。

 『ヒトラーの国民国家:強奪・人種戦争・国民的社会主義』(岩波書店、2012)は、ドイツ生まれの歴史家・ジャーナリスト、ゲッツ・アリー氏の著書を芝健介氏が訳したもので、ドイツ国民がなぜナチ指導部による巨大犯罪を許し、自らも犯しえたのかという疑問に答えています。「日中・日韓の問題を考える際にも多くの示唆を与えてくれる」と、熊野直樹氏(九州大学教授)は評しています。ファシズムに似た「ハシズム」が危険ないま、来たる12月16日の総選挙を考える上でも参考になるでしょう。

 『低線量汚染地域からの報告:チェルノブイリ26年後の健康被害』(NHK 出版、2012)の著者たち、馬場朝子・山内太郎両氏は、チェルノブイリ原発から 140 キロ離れていて、「年間 0.5 から 5 ミリシーベルトの被爆線量が見込まれる地域」とされているコロステン市を訪れ、そこでも多くの病気が増えている事実を報告しています。評者の前田利夫氏は、「その原因を究明することもなく放射線の影響でないとするのは、はたして『科学的』といえるのか—大きな疑問を投げかけています」と述べています。福島第一原発の事故による低線量汚染地域の調査も徹底して行なわれなければなりません。

 余談ながら、以前私が水村美苗著『続 明暗』を愛読したので、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』の続編である高野史緒著『カラマーゾフの妹』(講談社、2012)も読みたいだろうと妻が思い、その書評を読んだかと私に尋ねました。私はそれを見落としていて、朝日紙の書評欄だろうと思ったのでしたが、それも『しんぶん赤旗』の方でした。

多幡記