浅井千代子(本会世話人)
入院の用意は出来ているのに
しんどいと言いながら
—病院へは行かんよ—
—入院はせえへんで—と
頑固なんて全く似合わないのに
熱はないが呼吸が乱れ何より血痰が心配
手遅れにならない内にと促しても糠に釘
四日目とうとう観念救急車のお世話に
早速酸素吸入の応急手当を受け
漸く安堵の吐息
今回で三度目である
以前同じ症状で肺炎入院し
カルテがある M 総合病院を希望したが
ベッドの空きがなく断念
ほうぼう当って下さって
縋る思いで市民病院へ
がここでも点滴と検査で長時間留まっただけ
再び別の救急車で移動
何とか受け入れてくれると言う病院へ向う
なんの事はないわたしが骨折入院し
この夏退院したばかりの B 総合病院
北から南へかなり遠方である
朝からの不安と緊張で
手術したわたしの足が言う事を聞かないが
付添いがヨタヨタしていてどうする
ここは無理にでも元気婆さんを演じる
そう言えば今日はクリニックでリハビリの日
でも これだけ動けばリハビリしたも同然
暦は間もなく師走である
日暮れは早く冬の闇が広がり始めている
救急室にはいった壗の夫が
ストレッチャーで出て来た
例によって管だらけ
別棟の個室へ荷物と共に移る
夫はすっかり安心した様子で
—こんなん長生きせんと早よ死んだ方がよろしい—
そして
若い看護婦さん達から
—そんなあほな事—とたしなめられている
ベッドに落ち着いた頃
遅い夕食が運ばれて来た
とろとろの粥に
ホーレン草のおひたし 高野豆腐と人参の煮付け サケの焼魚まだ温かい
そう言えば大急ぎで食べた朝食以外
胃の中はカラッポ
粥嫌いの夫はほとんど手をつけず
代りにわたしが平らげた
気がつくと帰りの交通機関は皆無
病院の送迎バスは 15 時が最終
主治医の O 先生がタクシーでと云ってくれたが
これから病院の支払いを心配しなければならないのにもったいない
帰っても一人
独断で泊まる事に
腰掛用の小さなソファーをベッド代りに
夜中転げ落ちないように脇にテーブルを添え
急ごしらえの寝床を作る
寝具がないので着のみ着のまま
夫のジャンパーが掛け布団代り
今夜はすぐ起きる態勢でと
丸くなり横になる
遠い日肉親の介護に
走り廻った日々を思い出す
養父 両親 叔父 妹
あの時分はまだ若かった
今や老々介護だ
でも………???
どうぞ二人合わせて自称半人前の日常に戻れますように
天井の白 壁の白 薄いベージュ色のカーテン
瞼を閉じると
ふんわり真綿のような白い雲が広がる
思っても見ない
長い長い一日の夜が
こうして更けてゆくのでありました
『異郷』第23号(2013年1月)から
挿絵・多幡達夫
挿絵・多幡達夫
0 件のコメント:
コメントを投稿